エクラン・オート・ルート Haute Route des Ecrins


5日目 6月30日 晴れ

タンプル・エクラン小屋 Refuge de Temple Ecrins 〜 クーリッジ 3775m Pic Coolidge
〜 プレ・ドゥ・マダム・カルル Pré de Madame Carle


出発地点と到着地点 標高 所要時間
タンプル・エクラン小屋 Refuge de Temple Ecrins 2484m
クーリッジ Pic Cooldge VN : F 3775m 5時間15分
プレ・ドゥ・マダム・カルル Pré de Madame Carle 1874m 6時間10分







こんな話から始めるのは何であるが、山で一番悩まされるのは私にとってトイレである。
例えばモン・ブラン山群のレショ小屋に泊った時には、夜みんなでワインを飲んだはよかったが、その後小屋外のトイレへロープを伝って下りて行かなければならなかった。しかもその晩トイレに行ったのは私1人だったのだ。昨年は登攀中トイレをするのが躊躇された(場所もなかった)ため水分を充分取らず、そのため右足肉離れを起こした。

そして昨晩は山小屋最後の夜ということもありワインを1瓶頼んだ。もちろん就寝前にはちゃんと2回トイレに行った。にもかかわらず、夜中また行きたくなった。これがフランス人だったら躊躇なくヘッドライトを点けて行く所だろうが小心者の私はそんなことはもちろんできずに、目を暗闇に慣れさせてから、そーっとそーっと歩きドアを開け、暗い廊下をトイレまで往復した訳だ。夜中に目が覚めてヌクヌクになった布団を抜け出さなければならない辛さはどなたも経験あることでしょう。ちなみにフランス人はトイレが遠いため夜中にトイレに起きることなんて皆無だ。

さて、そんな余計な体力と精神力を使ってしまった翌朝の起床は3時25分。天候は終日快晴を予報しており、山頂からの眺めも期待できそうだ。

今日のクーリッジ登攀行程は、山小屋を出発したらタンプルのコルを目指す。そしてクーリッジから伸びている南稜を登攀し雪稜に出る。この少し急な斜面を登り山頂に至る。標高差1365mの登り。下りは同じ道をコルまで戻り、コルからはノワール氷河を下ってマダム・カルル村まで行く。山頂からだと下りの標高差は1900mになる。
どうやら宿泊客のほとんどがクーリッジに登るらしい。

4時15分、まだ暗闇の中を出発。小屋を出たらクーリッジから小屋のすぐ上まで伸びている南西稜の末端を右へ右へとトラヴァーズしていく。そのためこの部分は登りもたいした斜面ではないが、この稜を巻き切ったら現れる岩の堆積、モーレーンあたりから斜面は急になる。この南西稜に沿ってしばらく登ると右にタンプル氷河の先端が現れるので、ここでアイゼンを履きアンザイレンする。そのまま最後までモーレーン上を登ってもいいし、状態が良ければ氷河上を登ってもいいだろう。私達は足が疲れるので氷河上を歩くことにする。辺りが明るくなったので見渡してみると点々とクライマー達の姿が見える。ルートはにぎやかになりそうだ。氷河の途中3100m辺りから右へとルートを取り、最後の200mは岩場を一気に上がるため少し息が切れる。
コルに上がった途端、陽の光と眺望が飛び込んできた。



やや右寄りがタンプルのコル
コルから山頂を見る
中央のピークを巻いて越えた先のピークがクーリッジ
紺碧の空の下でエールフロワドがどっしり構えている

コルからはクーリッジの山頂が良く見える。がそう簡単には達せそうもなく、先ず目の前にそびえている名もないピーク(3440m)を右に巻きながら越えていく。岩は手懸りがあるので、所々でスリングとカラビナで確保しながら登っていく。ここの岩場は難しくはないが(II〜III)、足を踏み外せば300m位下まで切れ落ちているのでやはり注意が必要。案の定岩場で渋滞に巻き込まれる。始めのころはおとなしく待っていたのだが、小さなテラスに出たところで追い越す。
巻き終えたら一旦キレットに下がり、再び岩を登り返す。尾根上には上がらず、山腹に見える細いテラスのルートを右にトラヴァースするとモーレーンに出る。ここまで来ると雪渓の上に山頂が良く見えるので俄然元気が出てくる。

モーレーンを渡り再びアイゼンを装着し雪上の人となる。標高にして約200mの斜面を黙々と登るが山頂は思ったより近づいてくれない。この晴れ渡った空とは裏腹に体調は良くなかったので、きっと歩調が落ちたのだろう。特に山頂直下の雪はこの天気で柔らかくなり重たく、歩きずらい。最後の30mは岩場だがアイゼンのまま岩を踏むキーキーいう音に耐えながらようやく山頂に達する。9時30分。

最初のピークでの渋滞
待ち時間にパチリ
最初のピークを越えるとクーリッジ山頂直下の雪渓が見えてくる
コル(中央)と最初のピークを振り返る
稜線はかなり細い


世に有名な山々を回りに持った山は時に影になってしまうことがある。でもそんな山が以外にも素晴らしいルートを隠し持っていて、驚かされたりする。北にバール・デ・ゼクラン、南にエールフロワッドと、その他にも名だたる山々に囲まれたクーリッジはそんな山の一つかもしれない。
山頂からはバール・デ・ゼクランの山頂に立つ十字架や東に落ちている険しい尾根が良く見える。残念ながらエクラン山群の秀峰メイジュはバールに隠れて頭しか見えない。そのかわりエールフロワドはその全容を惜しげもなく見せてくれている。
途中の雪渓上で2パーティが停滞していて上がってくる様子はない。もうあと少しなのに、こんなに天気も良く時間的にも大丈夫なのに、足が上がらない時というのはそんなものなのだろうか。それを見ていたら私のペースに合わせて登ってくれた2人に本当に感謝の気持ちで一杯になった。

バール・デ・ゼクランと東稜
遥か彼方に見えるモン・ブラン
レ・ルイ3589m方面、何だか他の山が低く感じる

この天気だ、いつまでも山頂にいたいのはやまやまだが、ここからコルまで登ってきたルートを下り、更に氷河をマダム・カルルまで約8km、2000m近く下りなければならないのでゆっくりもしていられない。
コルまで戻り、簡単に昼食を取る。
コルから氷河上に降り立つまではひどいガレ場だった。斜度はあるし頭ほどある石が足を下ろすたびにグズグズとズリ落ちる。慎重に足を置かないと岩の雪崩になってしまう。スラブ岩が現れればお尻を着いてずらす時もある。両手足を使って這い下りるといったところだろうか。エクラン山群ではこうしたガレ場は珍しくなく、むしろ通らずには済まされないかもしれない。ようやく450m下の氷河上に立てた時にはスパッツもパンツも真っ白だった。
ここからはひたすら氷河を下り、モーレーンの尾根に出るとやっとハイキングコースとなり、マダム・カルルの村に達する。

ノワール氷河、先端はほとんどが堆積した岩で埋まっている。マダム・カルルは先端右に曲がったまだ先
ノワール氷河上からコルを振り返る
氷河は切れ落ち滝になっていた
コルを挟んでクーリッジと反対側に座するタンプル峰
モーレーン上の道をコルに向かう登山者
モーレーンの登山道
マダム・カルルの村はもうすぐ

4時15分、マダム・カルル到着。村は木立に囲まれており、緑がとても新鮮に見えた。さすがに標高が下がると熱く、村の入り口の泉で第1弾、喉を潤す。第2弾は村にあるセザンヌ小屋のテラスでビールで乾杯。

エクラン山群はアルプスでも南に位置するために気温も高く、乾燥している。そのため山は荒涼としており緑は村から出ると少ない。もちろん高山植物もあまりお目にかかれない。交通の便も決して良いとは言えない。しかし圧倒的な高さをもった岩峰の連立、そそり立つ岩の屏風、それぞれ個性ある氷河や雪渓、山頂から見渡す山群の素晴らしさは類例がなく、しかも登攀欲を十分に満たしてくれる。
エクランひいきの私はこうしてまた来年もエクランに来てしまうのだろうな。



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